車窓の中で跳ねる五線譜

僕が脳裏を表にして書くブログです。難しい文体でごめんなさい。

紫煙

LEDライトがモザイク加工をかけアスファルトに反射している。道行く者は傘を傾げ交差していく。僕はこれも『いい天気』だと思っている。朱色の標識を躱して秋の訪れを感じる穂を撫でる。

微かな湿気り、指を擦る。靴底のゴムが捻れ嬌声を上げる。僕は緩やかで長い坂を下る。やはり深夜は『深』と言うだけあって奥深い。人は徐々に減っていき、水を蹴る音が消えていく。ピチカート、宵闇は陰鬱な印象を与えがちだが、僕の周りはコート・ダジュールと見紛う程に陽気で柔らかい。

甘い刺激臭。人工化合物のサイダー。遠くでグミを食べている男がいる。エレベーターの作業員がグミを噛みながらコンビニの外のベンチに座り煙草を手にしていた。僕は彼に惹かれていく。人間という存在に久しく出会ったような錯覚。コンビニのルクスはでたらめで世界から浮いている。近付くにしたがってヤニの匂いが甘さに混ざってきた。これが思春期を脱し大人を真似し愉悦に浸る青年期の阿呆と重なって妙に目が開ける。

自動ドア前の傘立てにピチカートを奏でていた僕の蝙蝠を入れ、日常の空間の脳に戻り入店した。中は艶やかな白、視神経が揺らぐ包装の山、何の変哲もないドレスを纏う店。特に何かを買う気もなかったが、あの甘い刺激臭が脳裏に焼き付いて、気付けばグミを買っていた。

封を開ける。あの刺激臭。あぁ、生きている証だ。作業員の姿はなく、灰皿の縁に佇む紫煙の陽炎だけが僕を迎えた。