車窓の中で跳ねる五線譜

僕が脳裏を表にして書くブログです。難しい文体でごめんなさい。

夢魔

黒白反転、瞬きは夢と現を行き来する。羽毛の柔らかさとは異なり、人肌は妙なしなりを帯びている。そこに温かさや冷たさを感じつつも、僕は血の気が全身を巡っている事実に到達した。

 

最近、夢に現れる彼女、僕のイデアとは離れた存在ではあるが淫魔と形容して大差無い夢魔が僕を妨げる。夢魔は僕と行為を果たすのだが、特にこれに意味はなく言葉も交わさない。その行為も異質なもので、僕と夢魔が食事を行い、持っているナイフとフォークを交換した後平然と食事をするものから、僕が夢魔を医者として診察し納棺するというものまで、まさに胡蝶の夢特有の無秩序さに溢れている。僕は自身の狂気を冷静に俯瞰してはいるが、その狂気が表層的なものであるとこの夢含め思うようになった。僕は自分が狂っていると明言出来ない。というのも、何を持って正常と烙印を押すのか皆目見当もつかないのだ。

 

死してなお夢魔は起き上がり、その生物と幻想の狭間である身体を僕に擦りつける。いや、僕の欲望は砂糖で出来た砂漠のように果てしなく陳腐で怠惰かつ劇場と思き激情の渦ではあったが、肉欲といった直線的な解釈を愛する事はなかった。快楽をそこに見出していたか、浮遊していた夢の僕は覚えていない。今の僕と夢の僕が混濁し困惑している。整合性が取れず、上を向けば空に落ちる錯覚に陥る。

 

『恋』それを知るには道半ばだ。突如として釘を打ち込まれるか、徐々に毒が四肢を捥ぐか。未知が墓場と共に眠らぬよう努力はしたいのだが、こちらがどれだけ勇み足を踏もうと嘲笑うかのようにそれは遠ざかっていくのだ。夢魔よ。君は何故僕を愛すのだ。いや、それは愛なのか。蔑みか。創造の根源たる子宮を食わせてくれ。不定たる表現の光に身を捧げる事を誓った僕に恋を教えてくれ。可憐か、悲哀か、憎悪か?

 

僕は寝床と体の間に羽毛のしおりを挟む。人肌は妙に硬い、が柔らかい。褪紅の平野に指を縫ってその感触に想いを馳せる。現の蝶を探すのはもう疲れた。ここに飛んできて、胸を締め付けてくれ。光を見失わないように。