車窓の中で跳ねる五線譜

僕が脳裏を表にして書くブログです。難しい文体でごめんなさい。

線香

僕のブログの文面が堅過ぎると思い少し文体を柔らかくする事にした。レイアウトも少々変更。レビュー等もここに書こうと思う。仄かに見ていただければ幸いだ。

錦の雲が列を成す中、砂利道を踏んで僕は今年の夏を思い出していた。暑さ、それを直接的に書く事を控えてきた文学的な僕の思考を遮るように花火の音が脳を往復する。同じ花火でも、線香花火は大きな華よりも力強さを秘めていると思う。

あの体から聴こえる囁き、虚ろな火花、弧を描き闇を穿つ。雫が穂先に溜まりその橙を克明にしていく。静かに、ただ静かに見つめる僕を見つめる花火。今夏と示し簡略化されたこの時間を、火の蛍と共に終えていく。曖昧な記憶ではあるが、そこに確かにあった存在が脳に映っている。冬の乾いた調べ。そこにあの蛍を浮かべたら僕の耳に何を聴かせてくれるだろう。

塩に似た感触が足裏に伝わる。墓地が近付いてきた。僕の知らない、誰かが忘れた誰かの墓の群れ。僕もここに眠るのだろうか。僕はあの蛍の最期を見届けた。椿の如く重力に震え地面に接吻した光は、力を吸い取られ死を迎えた。

背丈の低い石の塔。線香の刺激が鼻に飛び込む。誰かが焚べた悲しみ。記憶の端。いつの日か迎える死という壁にスプレーを掛け作品を描けるなら幸せな道を歩んだと言えるだろう。

唇が乾く、脳裏にはこれから来るであろう、幻灯に付く蝉氷。それを袈裟に斬る風花。微笑みと共に瞑り線香と夕凪に身を任せ空間に沈んでいく。救急車の音、生との葛藤だ。ここは生に負け、死を塗られた者達の酒場。良い心地だ。帰りは日常の亡骸をここに捨てて行く事にした。