車窓の中で跳ねる五線譜

僕が脳裏を表にして書くブログです。難しい文体でごめんなさい。

繭糸

僕の世界を展開すると大抵怖がられるのでここに書く事にしている。住み分けの配慮だ。自分語りのサーカスにも多少の演出や雰囲気変えは必要だろう。僕の世界が色濃く分かるのは夢日記なのだが、今回もそれに書かれた出来事(実の所、単語や簡易な文の集合体なのだが)それを補完しつつ綴っていこうと思う。


サーモンピンクの夕日、まさしくカクテルの様な鮮やかで厚ぼったい空模様に僕は溜め息を溢す。火力発電所の煙突が幾層にも重なり、航空障害灯が、朱を強める空に劣らず明滅している。立ち上る煙は天の川の様に拡がり星の観測を妨げる。断続的な薄い金属音がして、視線を目下に移すと足元に鉄パイプが転がってきた。すぐ横を傘売りの少年が煉瓦の並木通りを歩き、歌を口ずさみながら去っていった。


真新しい歯車や、定期的に打ち水を行う競走馬をガラスに閉じ込めた街宣車が低速で車道を走行している。僕はゆっくりと歩みを進め、夕日で色褪せた並木通りを見て回った。燦然とした煉瓦の群れを踏むのは勇気のいる事だったが、徐々にその感覚も和らいできた。スプレー売りの露店を捉えた僕はそこで『紀州梅』を購入し、口内に塗布した。味は覚えていないが悶える程に強い刺激だった事は記憶している。クロマグロが樹木の上を尺取虫の様に這い、風は悪戯に僕から退屈を盗んでいく。歪な杖をつき、冬服のパッチワークを纏う女児が僕の背後に何かを貼り付けながら話し掛けてきた。

「これからだよ」
「」(覚えていない)
「はじまるから、これから」

あとの女児との会話は覚えていないが、女児はしきりに”これから”と僕に伝えてきた。その時は何がこれからなのだろうと思っていたが、すぐにその疑問は解消した。いや、既に僕はその答えを知っていたのかもしれない。目を覚まして現実に戻った僕はそう考える。


背後に何を貼ったのかは知らない。並木通りは歩幅通りに動く。夕日は朝日に変わり、夕日と喧嘩して夜になった。何座かの流星群だ。ベレー帽を被った体長2m30以上はある四足歩行のノッポが僕と同じ方向に向かい歩いていた。脚は異常に細く、動きは鈍い。マットスプリングが軋むような音を鳴らしながら関節が動いている。ふとノッポが振り返る。目はエレベーターの開閉ボタンで、口には楽器ケースがぶら下がっている。形状から考えてホルンだろう。

「」(覚えていない。多分声をかけた)
「これからショーに出るんだ」
「へぇ。楽器を演奏するんですか?」
「朝が来る」

ノッポは動きに反して急いだ様子だった。僕は彼をどうする事も出来ず、その場を後にした。
どこかのオペラハウスに到着した。外観は良く覚えていないが、海鮮系の甲殻を模していたという記憶が薄く残っている。厳重な手荷物検査の後、水中に潜ると大ホールに到着した。オーケストラがラの音で調整を始めていた。僕は柔らかい席の中で心地好い旋律と共に眠りについた。


今思えば、あのノッポを押してあげるべきだった気がする。