車窓の中で跳ねる五線譜

僕が脳裏を表にして書くブログです。難しい文体でごめんなさい。

駱駝

存在しないはずの砂を吸い込み噎せた。

この星は怪訝な視線で溢れている。なんて不快で退屈なんだ。
興じる心を失った雑多な者共は歯車を自覚せず役割論に乗っ取って電網に群がる。
「気の毒に、今日はお前修学旅行だろ?」
亡き父が僕に言う。ホームの待合室に立つ僕達は電車を待っているようだった。ここは夢か。そう直感したのは遠くに見える巨大な砂嵐だった。落雷が亀裂を描き、螺旋を描き、波を描く。そうか、声が震えている。これが期待なんだ。
「そう、でも行く所そんなに楽しくないし」
「どこに行くんだっけ」
行く場所を考えるがあの場所は何と言うのか。日本刀で輸血パックを裂いて笑っているような路地裏の陰湿さで、頬ごと口を締め付けて足枷をはめるような拷問に近い規律性で、ポラロイドの粗さをぶちまけた窓際の静かな気味悪さがあったあの場所は、あれだ。

学校だ。

「学校行くんだ」
「修学旅行で学校か。また意外な所だな」
「つまらないよ。いつも行ってるような所だろ?」
「まぁな。人間っていうセオリーに組み込まれてる所だし、新しさはないな」

毛羽立ったスニーカーを見て、もう捨てる時期かと靴紐を改めて結ぶ。
どうしても僕という人間は一瞬を切り取る才に苦しみ、どこか誇らしく思っている。
「あ、来た」
電車が来た。父はそれに轢かれた。さようなら。これがどこに向かうのか確認して乗り込む。駱駝の乗客はマスクを着けてニヤついている。吐き気のする日常の流入だ。
同じクラスの人間が僕を見つけるが横向きに持ったスマホに目線を戻す。そうだろうな。僕は今肉塊に見えているはずだ。

存在しないはずの砂を吸い込み噎せた。

皆僕を一斉に見て、僕を刺し殺した。楽しそうだった。痛みはなく、当然のように思える。

 

「旅行って、こんなに虚しい気持ちにさせる存在だったかなぁ」

 

砂嵐が列車を飲み込んだ。人間の証が洗い流されていく。車両には僕以外残っていない。無惨にも、そう表現しそうな自分が恨めしかった。
これは夢だ。そう自覚出来るようになってから夢はその牙を鋭く研ぎ出した。僕が何をしたと言うんだ。慟哭で車両の窓を突き破るとトマトと消毒液の塩素の香りが前方から漂って来た。面倒臭いと感じるのは、きっと授業の記憶だろう。いつのものだろうか。

学校に向かうはずだった列車は既に線路という概念を無視して進んでいた。砂嵐の心が僕を解放していく。僕をこのまま、このまま、どうしてくれと言うんだ。
読み進めていく内に徐々に文字を読み飛ばしていくあの感覚が視界を奪う。盲点が広がる。未来に寄生虫が取り憑く。砂が集まって鏡になっている事に気付いた。自分は笑顔でピースサインをしている。ここまで虚栄心に浸されたピースサインを見るのは初めてだ。この砂嵐は僕が青春を置いてきた事を咎めに来たんだ。

寒々しい。何が間違いだって言うんだ。無力さ。無力なんだ。駱駝よ、お前は何が可笑しいんだ。何に笑えるんだ。何故躊躇なく、僕を殺せたんだ。
僕は夢の線を切った。目覚めは苦しいものだったが、現実の暗さは希望の灯に思えた。

 

僕の言葉を否定するな。あの砂嵐は、紛れもなく僕自身だった。僕を否定した、あの頃の自分だ。僕は過剰な自己否定をしてきた。それにより、一度精神を壊している。その反動から自己否定に対して恐怖心を覚えている。その代償が脳に虚像を生んだのだ。

 

 

ああ、寒い夜だ。